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足立簡易裁判所 昭和30年(ハ)71号 判決

原告 芳賀佐右衛門

被告 彼ノ矢春一 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人はいづれも原告に対し被告彼ノ矢は七千五百円、被告広田は一万円、被告高橋は六千円を支払いせよ、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求め、その請求原因として、原告は東京都足立区千住三丁目四十番地所在木造トタン葺平家建アパートのうち五号室(四畳半室)を被告彼ノ矢に賃料を一ケ月二千五百円にて、同七号室(四畳半)を被告広田ユキに賃料を一ケ月二千五百円にて、同二号室(三畳室)を被告高橋に賃料を一ケ月一千五百円にて賃貸中であるが、被告彼ノ矢は昭和三十年一月以降同年三月末日迄、被告広田及同高橋は同年一月以降同年四月末日迄の各賃料の支払いをしないのでこの支払いを求める為め本訴したものである。尚右各賃料はその目的である建物が元倉庫であつたものを昭和二十五年八月頃内部を住居用に改造したものであるから地代家賃統制令第二十三条第二項第二号「昭和二十五年七月十一日以後に新築に着手した建物」に該るので同法第二十三条第二項の規定により同令の適用外にあるのであるが、仮にそうでないとしても本件建物は元倉庫であつたから同令第二十三条第二項第三号により同じく同令の適用外にあるので右家賃が同令による統制額を超ゆるものであつても適法であると陳述した。

被告等はいづれも原告の請求を棄却するとの判決を求め、請求原因事実に対し、被告等が原告主張の建物の一部を原告主張の約定賃料を以て賃借していること、且つ原告主張の通り賃料を支払わなかつたことは認めると述べ、抗弁として被告等はいづれも原告が云う賃借建物の所有者であるとの言を信じて賃借したものであるところ、訴外石田信之助は右建物の真の所有者であるとして東京地方裁判所に原告と共に被告等も家屋明渡の訴訟を提起され目下進行中であり、且被告等は右訴訟に於いて賃料と同趣旨の損害金の請求を受けているので、原告に対しては右訴訟が終了する迄は本件賃料の支払いを拒む権利があるから原告の請求は失当である。仮に右抗弁が理由がないとしても被告等は原告の為めに本件建物の電燈料、水道料の立替払い(金額は遂いに明確にされない)を為し、原告に対しその債権があるから右立替金と本件賃料とを対当額にて相殺すると陳述した。

理由

被告等が原告主張の建物の各一部を原告主張の約定賃料により賃借していること、及び被告彼ノ矢は昭和三十年一月乃至三月分迄の賃料を、其他の各被告は同年一月乃至四月分迄の賃料を支払わない事実は当事者間に争いない。

然し乍ら家賃については地代家賃統制令第三条によつて統制額以上の家賃を受領することを禁止されており、同規定は強行法規であるから家賃額について当事者間に争いのない場合においても裁判所はそれが統制令によつて規制される賃料であるか、又規制される賃料であるとすれば統制額の範囲内であるかどうかについて調査しなければならないところ、原告は本件建物は元倉庫であつたのを昭和二十五年八月頃内部を住居の用に供するよう設備改造したものであるから、地代家賃統制令第二十三条第二項第二号により同令の適用外にあると云うのであるが、倉庫の内部を住居に改造したとしても同条第二項第二号に云う新築に当らないのでこの主張は理由がない。そして更に原告は右主張が理由がないとしても本件建物は元来が倉庫であるから同令第二十三条第二項第三号により同統制令は適用されないと主張する。成程同令第二十三条の改正により倉庫等の同令の適用を排除する規定が設けられた昭和二十五年七月十一日当時は、原告の主張によれば倉庫であつたから同令の適用がなくなつたのであるが、その翌月である昭和二十五年八月に居住の用に供する為めに改造したので同令第二十三条第二項但書により再び同令の適用を受ける建物となつたものと云わなければならない。そうすると本件賃貸借の目的である建物の賃料は同令の規制を受けるものであるから本件原告請求の賃料は同令による統制額を超える部分については請求し得ず、統制額相応の賃料については一応請求権の存在を認められるかたちになるのであるところ、本件について提出された資料によつては本件賃料の統制額を算出することができず、且つ原告は同令の適用がないものとして統制額認定につき何等資料の提出をしようとしないのでこの額の算出ができない。

よつて原告の請求額自体が不明確の為め被告等の抗弁を判断するまでもなく原告の請求全部につき理由がないのでこの請求を棄却するもので、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 長谷川酉次郎)

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